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5年ぶりに届けられた3,500円 〜仙台から熊本へ〜


いま僕の目の前には千円札3枚と500円玉1枚がある。

なんの変哲もない茶封筒に入れられた3,500円。

いま僕は涙をこらえながらその3,500円を見つめている。

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2011年3月。
その男「イイダ」は店に現れた。
当時僕は渋谷で人生ではじめてのお店(Tシャツショップ)を開業していた。
2月にオープンしたばかり。
季節は冬ということもありさっぱり売れなかったが、3月になれば少しは暖かくなってきてTシャツもきっと売れ出すはず、そう自分に言い聞かせてふんばっていた。
そんな折り、3月に入ってすぐ、吉報が舞い込んだ。
テレビ局からの電話で取材をしたいとのこと!
翌週タレントとクルーが来てテレビの撮影、これがオンエアされたらいっぱいお客さん来るぞー!そんな期待が膨らむ中。
3月11日午後2時。
あの地震が起きた。
渋谷から光が消えた。
人も消えた。
お店も開けれない、Tシャツは売れない、お金もない、もちろん僕が出るはずだったテレビ番組も震災報道で消えた…。
お金のこと、余震のこと、放射能のこと、日に日に壊れていく日本経済のこと、いろんな不安の中、なにをしたらいいのか分からず、ぼんやり娘とパズルで遊んでいた。
それは都道府県がそれぞれピースになったパズルだった。
そのパズルを子どもと触っているときにふと閃いた、というより、助けて!という心の絶叫といったほうが近いデザイン。
それがあの「日の丸」だった。
電気も来たり来なかったり、明日さえも見えない、どうしようもなく不安だけどみんなでぎゅっと肩を寄せあっていたい。
みんな、力をあわせてください。お願いします。
そんな心細い気持ちから生まれた日の丸のデザインだった。
そのデザインでチャリティTシャツを作った。



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ほどなくしてそのTシャツはテレビニュースに取り上げられ、たくさん注文がきて、たくさん刷って、たくさん募金することができた。
そんな3月の下旬だったと思う、イイダは僕の店に来た。
彼は3月11日のことを話してくれた。
大企業に務める彼は当時宮城県の巨大な工場にいて、そこで被災。
地震のあと津波が来て一瞬で閉じ込められたという。
どんどん、どんどん水位が上がってきて停電で真っ暗な中を上の階、上の階へと逃げながら死ぬかと思った話し。
そのあと水が引いて食料を探しに外へ探検に出た話し。
ドロの中に漂着した缶詰を見つけて洗って食べた話し。
救助されるまでそんなサバイバルの日々が数日間続いたという。
そして話も一段落し、イイダは例の日の丸Tシャツを買って帰ると言う。
僕は言った。「あなたは被災者だ。だから応援する側ではなく、応援される側。このチャリティTシャツは僕からのプレゼントです。受け取ってください」と。
僕の差し出したTシャツをIはしぶしぶ受け取り、帰って行った。

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2016年4月。
5年ぶりだった。
ふらっとイイダが店に現れた。
お互い人見知りの口下手。
永遠に続くかと思われるほど長いぎこちない空気を破るように「熊本城のTシャツ、ありますか?」とイイダが言う。
なるほど、東日本大震災の時にいろんな人に助けられたから今度は自分が熊本の被災者を応援しようってことか、素敵だな、うん素敵だ、と思いながら代金を受け取りTシャツを畳み、袋に入れて渡した。

それを受け取るイイダ。
あとは帰るだけのイイダ。

なんかもうちょっと話がしたいなと思ったが言葉が続かない。
困ったな なんかないかな 困ったな なんかないかな 困ったな…

まごつく僕にイイダはお構いなしで予想外の行動をとりはじめた。

茶封筒を差し出しながら言う。
「これ、5年前のお金です」
?… 5年前? 東北大震災… え?僕お金貸してたっけ? いやいやずっと貧乏だもん。貸すお金なんかあるわけないよなぁ…
「チャリティTシャツあったじゃないですか?」
うん。???
「あれ、僕渋谷のお店に買いに行ったけど、タダでもらってしまってて」
へー?そうだったっけ?たしかに僕そういうことやりそうだよね。実際今回も熊本の友人・知人の被災者に配ってるし…。
「だからそのお金を返しに来ました」
ん???
「あの時の代金、ここに入ってるんで熊本に送るなり、菊竹さんが飲みに行くなり、好きに使ってください」
えー!ありがとう!ではありがたく飲みに行かせてもらいいやいやいや…!

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目の前にある3枚の千円札と1枚の500円玉。
なんの変哲もない茶封筒に入った、5年ぶりに届けられたこの3,500円。
もちろん全額熊本に送ります。

5年前の仙台の被災者から、今回の熊本の被災者へ。

困っている人がいたら誰かが助け、助けられた人が今度は次の人を助ける。
そういう助け合いの日本がこれからも続いていくといいなぁと思います。

P&M
菊竹進
| 今日のプリント | 18:17 | comments(0) | - |
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